境界標(境界杭)を一方当事者のみで入れることができるか(結論:判決取得で可能)

隣地との間で,土地の境界が問題となることがあります。

この場合,法務局の筆界特定制度を利用して,土地の境界をあきらかにすることが多いと思われます。

なお,いきなり筆界特定訴訟をすることも可能ですが,裁判所としては筆界(境界)特定のための資料が少ないことから,法務局の筆界特定制度を利用するよう促されることが多々あるといわれています。

ですから,まずは筆界特定制度を利用された方がよいでしょう。

ただし,近年筆界特定制度で特定された筆界を否定する判決が3件出ていると聞いてます。そのため,必ず筆界特定制度による筆界(境界)が裁判で認められるわけではありません。とはいえ,そうだとしても特定のための資料収集は法務局のほうがよくわかっていますので,やはり筆界特定制度の利用は事実上必須かと思われます。

さて,筆界特定制度で筆界が特定された後に,境界標(境界杭)を入れることになります。

この境界標(境界杭)は,一方当事者のみで入れることができるのでしょうか。

民法223条は,境界標(境界杭)につき「土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができる。」と定めています。

隣地所有者と共同で入れることが前提となっているため,筆界特定制度で筆界が特定された後に,境界標(境界杭)を一方当事者のみが勝手に入れることはできません(新版注釈民法(7)物権(2)355ページ)。

しかし,境界確定訴訟(形式的形成訴訟)とあわせて,請求の趣旨に「被告は原告に対し右A点に五寸角,長さ五尺の花崗岩作りの境界標石一本を埋設せよ」と記載し,給付の訴えをすることが可能です(東京地裁S39.3.17)。

この給付の訴えが認められれば,被告には境界標(境界杭)埋設義務が具体的に発生します。

そして相手方の同意がなくても前記主文の判決で同意擬制が認められるため,一方当事者のみで境界標(境界杭)を埋設することが可能となります。

現在,法務局では境界について,国土地理院が設置しているGNSS(人工衛生による測位システム)を利用した電子基準点を基点として境界の特定を行っているため(簡略化していうとGPSを利用して境界を定めるということ),現実の境界標(境界杭)がなくても筆界の特定はされたとも言えます。

しかし,現実の境界標(境界杭)があることで,実際の土地利用について事後的紛争の防止の効果があること,所有権界との関係でも境界が問題となり得ることから,やはり現実の境界標(境界杭)を入れておくほうが紛争解決のためにはよいのでしょう。