相続人間で相続に争いがある場合に債務者は供託できるか(結論:供託はできない)

相続人の範囲がはっきりしていて,各相続人の所在も判明しているが,相続人間で具体的な相続金額について争いがある場合に,債務者は誰にいくら払えばよいのか,または供託してしまったほうがよいのでしょうか。

例として,相続人が2人(各法定相続分は2分の1),被相続人の債務者は契約代金200万円を被相続人に払う予定であった場合を考えます。

相続人間で寄与分や特別受益に争いがあり,具体的な相続金額が定まっていない場合に,債務者としてはどのようにすればよいのか迷うと思います。

このとき,相続人各人への支払額が不明であるとして,債権者不確知を理由とする供託ができるようにも思えますが,これは法務局が供託の受付をしてくれません。

理由としては,相続人の範囲が明確であれば法定相続分の算定はでき,かつ所在も判明していれば履行の提供も可能であるため,債権者不確知の要件に該当しないためです。

この点,このような場合に供託ができると記述している弁護士の記事もあるようですが,法務局の実務上不可能なので,誤りということになります。

なお,受領拒絶の場合には供託はできますが,前記の場合には法定相続分の2分の1である100万円を拒絶した部分についてのみ供託することができ,受領をした相続人の部分については供託することはできません(なお二人とも受領拒絶をした場合には二件の供託が必要になる)。

法定相続分での履行の提供があれば,他の相続人から法定相続分よりも実際の相続金額が少ないと言われている相続人は受取をしてしまうでしょうから,他方相続人は受領拒絶したり供託してもらう意味はないということになります。

このような場合には,遺産分割調停の申立を行い,遺産分割調停申立事件を本案として財産の管理人選任の申立を行い,財産の保全をすることになります(家事事件における保全処分の実務と書式111ページ)。