数人で相続後,一人が固定資産税を支払っていれば不動産を時効取得できるか(結論:税金支払だけでは時効取得できるとは限らない)

不動産を相続した場合に,相続人間で話し合いをしなかったり,または相続人間で相続登記を行う必要性を感じない場合があります。

このとき,登記は被相続人(亡くなった方)の名義のままとなります。

その上で,不動産の固定資産税は「相続人代表者●●」という宛名で市町村から通知書が届くため,相続人のうち一人が相続対象不動産の固定資産税支払を行い続ける,ということがあります。

では,相続後に,固定資産税を支払っていた相続人は,被相続人名義の不動産を時効取得できるのでしょうか。

民法は162条で,「1 二十年間,所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人の物を占有した者は,その所有権を取得する。
2 十年間,所有の意思をもって,平穏に,かつ,公然と他人の物を占有した者は,その占有の開始の時に,善意であり,かつ,過失がなかったときは,その所有権を取得する」と取得時効の制度を定めています。

固定資産税の支払を20年続けていれば,取得時効によって土地を自分のものにできそうにも思えます。

しかし,相続した土地というのは,相続人の間で共有している状態です。共有とは,一人で所有しているのではなく,自分と他人で所有している状態です。

そうすると,相続した土地というのは他人の土地の部分もあるということです。

他人の土地であることを土地を取得したいという人が認識していた場合,「他主占有」という状態になります。

たとえば,賃借している不動産はいつまでたっても借りている不動産でしかなく,借りている人に所有権が移ることはありません。これは他人の不動産であると使用している人が認識していて,「他主占有」になっているためです。

取得時効が成立するためには,「他主占有」の状態ではだめで,「自主占有」の状態でなければなりません。

では,固定資産税の支払をしている人には「自主占有」があるといえるのでしょうか。

この点,判例理論では「相続人の所有の意思の有無を相続という占有取得原因によって決することはできない。相続人が新たな事実的支配によって占有を開始し,その事実的支配が「各事情に照らして」外形的客観的にみて所有の意思に基づくものと解せられるとき,自主占有が成立する。」ということとされています(最判平8.11.12)。

つまり,相続したから自主占有になる,税金支払をしていたから自主占有になる,という単純な話ではないということになります。

すなわち,相続人が取得時効を主張する場合には,「新権原」(自主占有権原)に基づくこと,または「各事情」(自主占有事情)から外形的客観的に帰結される所有の意思を本人が知りうべき仕方で表明したことを立証することが必要になります(新版注釈民法(7)物件(2)68ページ)。

なお,民法884条が「相続回復の請求権は,相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも,同様とする」として相続回復請求権の消滅時効を定めています。

しかし,これは表見相続人に対する消滅時効であって,相続人間での消滅時効ではないため,相続人間では適用がありません。

そして固定資産税の支払については,相続人間で共有していた土地ですから,本来は共有者が全員で負担すべきものになります。そのため,固定資産税の支払をしていた相続人は,他の相続人に対して,不当利得(民法703条)返還請求訴訟を通じて精算を求めることとなります。