離婚の際に退職金は財産分与の対象となるのか(結論:対象とされる)

夫婦のどちらか又はいずれかに退職金が退職時に支給される場合,離婚の際に財産分与で退職金が対象となるのでしょうか。

まず,退職金,退職手当が財産分与の対象財産となるのは,退職金が労働の事後的対価,賃金の後払いであるという点に求められています。労働の対価,賃金である以上,財産分与の対象となります。

退職金が財産分与の対象となるとしても,減給,解雇,勤務先の倒産といった将来の不確定要素をどのように考慮すべきか問題となります。

そのような不確定要素があり,退職金が100%確実に支払われるわけではないともいえるため,財産分与の対象にするのが適切かが問題となるためです。

この点,将来の不確定要素があることを理由に分与額を確定せず,これを現実の受領額の一定割合とする裁判例もあります。

しかし,最近の実務は,将来の不確定要素はその蓋然性が高い場合を除き考慮する必要はないとしています。

また,懲戒解雇のように本人の責任によるものは,基準時後に自らの行為によってその権利を喪失したものであるため,考慮する必要はありません。

次に,退職金の支給時期が相当先の場合に,財産分与の対象として考慮できるのかが問題となります。

この点,以前は支給までに相当の期間(10年以上)がある場合,特に私企業の場合には、支給の蓋然性が低くなるとして,財産分与の対象とすることができないという見解がありました。

しかし,現在の裁判所の実務では,支給が相当先であっても,退職金が賃金の後払い的性質を有するものとすれば,勤務期間に応じてその額が累積していると考えられることから,財産分与の対象となるという扱いになっています(離婚に伴う財産分与 裁判官の視点にみる分与の実務109ページ)。

では,退職金のうち,財産分与の対象となる範囲はどの範囲になるのでしょうか。

前述したように,退職金が労働の事後的対価,賃金の後払いであると考えられています。そうすると,抽象的には,婚姻後別居までに労働した分の対価として評価される部分が,清算的財産分与の対象となることとなります。

最後に,退職金を財産分与の対象とするとしても,その金額をどのように計算するのでしょうか。

財産分与の対象となる退職金の算定方法は,以下の三つの考え方があります。

第1説

別居時に自己都合退職した場合の退職金相当額を考慮する(婚姻前労働分は差し引く)。

第2説

定年退職時の退職金から,別居後労働分(及び婚姻前労働分)を差し引き,中間利息を控除して口頭弁論終結時(審判時)の現価を算出して算定する。

第3説

定年退職時の退職金から,別居後労働分(及び婚姻前労働分)を差し引くが, これに対応する財産分与金の支払時期を退職時として,中間利息を控除しない。

東京地方裁判所では第1説の考え方がとられることが多いようです(リーガル・プログレッシプ・シリーズ 離婚調停・離婚訴訟〔改訂版〕180ページ)。

水戸地方裁判所龍ケ崎支部においても,第1説の考え方で算定されることが多いと思われます。

退職金の算定を含め,離婚時の財産分与や養育費の算定方法などは,考え方や計算方法がかわっていることがあるので,最新の知見を有している弁護士とよく相談をして内容を検討する必要があります。