保険契約における保険契約者はどのように決まるのか(結論:形式的な契約者,実際に保険料を支払った者,いずれの場合もあり得る)

保険契約の契約者は,どのようにして決まるのでしょうか。

一般的に,保険契約の契約者が保険料を支払うため,あまり問題にはなりません。

保険法でも,生命保険契約における保険料支払義務の主体は,保険契約者であると定められています(2条3号)。

しかし,保険契約の契約者と保険料の支払をしている者に食い違いがあり,かつ保険解約返戻金を誰が受け取るのかが問題になっている場合には,保険契約者が誰なのか確定しなければなりません。

具体的には,離婚の際の財産分与の財産としてカウントできるのか,相続の際の相続財産の一部としてカウントできるのか,という場合に問題が顕在化します。

この点,銀行定期預金に関しては,預入行為をした者と出捐者が異なる場合,預入行為者が資金を横領して自己の預金とする意思で記名式預金をしたなどの特段の事情が認められない限り出捐者が預金者であるとするのが判例の立場となります(最判昭和52・8・9,最判昭和53・2・28,最判昭和57・3・30等)。

これに対して,保険契約における保険契約者が誰になるのかという認定は,考え方が分かれている状態です。

まず,(1)保険契約申込書の記載に従うという見解です。

これは保険契約における保険契約者は保険契約申込書に記載された者だとする考え方で,保険契約申込書の記載という形式的な点を捉えて保険契約者を決定する考え方です。

保険契約書記載の者を保険契約者と認定した裁判例等は,①福岡高判平成9・11・27生判9巻523頁,①判決を是認している上告審判決である②最判平成11・9・17生判11巻519頁,③甲府地判昭和63・3・18生判5巻245頁があります。

次に,(2)保険料の実質的な出捐関係に従うという見解があります。

これは前述の預金者を出捐者(金銭を支出した者)と考える基準を保険契約にも当てはめて考える見解と言えます。

保険料の実質的な出捐関係に従って保険契約者を認定した裁判例等は,④大阪高判平
成7・7・21金融商事1008号25頁,⑤最判平成10・2・26生判10巻93頁,⑥東京高判平成24・11・14判夕1386号277頁などがあります(論点体系保険法2 107ページ)。

学説では,基本的には保険契約申込書及び保険証券上の名義に従い保険契約者が誰であるかを判断するべきであるものの,具体的な問題ごとに妥当な解決を図るべきであるとの見解が示されているようです。

保険契約は預貯金とは異なり,生活の保障を契約者に与えるものであったり(生命保険や年金保険),契約の状況から見て出捐者が契約名義人に贈与するものと認定されたり,単なる契約者の名義貸しの場合であったり,事情が異なっていることから判断が分かれていると思われます。

保険契約の契約者が争いとなったときには,保険契約の性質や,保険契約締結の経緯など,具体的な事情をあきらかにしていく必要があるでしょう。