親族であれば無条件に扶養義務が発生するのか(結論:余力がありかつ扶養需要がある場合に限られる)

民法では,第八百七十七条において,「直系血族及び兄弟姉妹は,互いに扶養をする義務がある。」と親族間の扶養義務を定めています。

 では,親族間であれば無条件に扶養義務が発生するものなのでしょうか。

 まず,生活扶助義務では,義務者が自己及びその共同生活下にあり,かつ,当該扶養権利者よりも先順位にある扶養権利者の社会的地位に見合った従前の生活レベルを落とさず, さらにその他の先順位の扶養権利者への扶養を履行してなお余力のあるときにのみ具体的扶養義務が発生するとされています。

 それぞれの家族について,当然ながらそれぞれの生活があります。

 そのためまず自分たちの生活が優先され,先順位の扶養義務を履行しても,なお余力があるときに扶養義務が発生することとなります。

 では,扶養義務者に余力がある場合には,必ず扶養をしなければならないのでしょうか。

 たとえば,高齢の親族が月あたりの年金額が10万円しかないものの,預金を1000万円単位で保有しているような場合にまで,扶養義務が発生するのかが問題となります。

 この点,生活扶助義務における扶養の程度は,義務者の扶養能力の枠内で達成しうる権利者の扶養需要(生活需要の中でその者自身の資産・労働によって満たしえない部分)の程度ということになります。

 その結果実現される生活レベルは,生活保護基準額の示す最低生活を下限とし,従前の生活が上限とされています。

 扶養能力が扶養需要を満たす場合には,扶養需要の程度が扶養の程度となりますが,権利者の生活需要,扶養需要の程度は,権利者・義務者間の諸事情の相対的・総合的均衡によって決せられるとされています(新版 注釈民法(25)795ページ)。

 扶養権利者のこれまでの生活レベルが生活保護基準額の示す最低生活を下回っていた場合は,生活保護基準額の示す最低生活を満たすだけの扶養を行わなければならなくなることから,扶養義務者の生活レベルは従前のものを上回ることとなります。

 逆に,扶養能力が扶養需要を満たしえない場合,扶養の程度は扶養能力の程度となります。

 この場合には,最低生活水準を下回ることのないよう,不足分は後順位の義務者(あるいは公的扶助)によって補われなければなりません。ただし,権利者の需要と義務者の能力との相対的均衡の視点から,扶養需要が,先順位義務者との関係におけるよりも高く又は低く設定されることもありえます。そして公的扶助によるときは,受給要件を満たさなければなりません。

 他方,同順位の義務者が複数ある場合には,それぞれが担う扶養の程度はそれぞれの「扶養能力」に応じて, また,同順位の権利者が複数ある場合には,それぞれが得る扶養の程度はそれぞれの「扶養需要」に応じて定められるのが原則となります。

 このような考え方からすると,前述のような「年金額は少ないが預金は多額である方」の場合には,そもそも扶養需要が存在しない(扶養されなくても,自己の資金だけで生活が成り立つ)ということになります。

 最終的な具体的扶養義務の内容は家庭裁判所の審判によることとなりますが(第879条 扶養の程度又は方法について,当事者間に協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,扶養権利者の需要,扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して,家庭裁判所が, これを定める。),その額や内容,義務者が誰になるかをどう定めるかについては,それぞれの事案に応じた解決が図られることとなります。