交通事故を起こした場合,かならず救護義務が発生するのか(結論:交通事故発生の認識が必要)

道路交通法72条前段は,「交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。」と定め,交通事故を発生させてしまった運転手等に負傷者の救護義務を課しています。

救護義務に違反した場合,免許制度においては35点の点数が加算されます。

また,救護義務違反には道路交通法117条1項において「車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」と刑事罰も定められています。

では,交通事故を発生させてしまった場合,運転手等には必ず救護義務が発生するのでしょうか。

そもそも,「交通事故が発生したこと」を認識していなければ,運転手等は救護義務を果たさなければならないという認識も発生しません。

救護義務違反は過失犯ではなく故意犯であるため,救護義務違反の故意が必要になります。

この点,「交通事故を起こして人を負傷させたが,事故時に事故等の認識がなかつた場合には,救護義務違反の罪は成立しないが,その後に何らかの交通事故の発生を認識した場合にはその旨の報告義務がある。」と判示した裁判例も存在しています(大津地方裁判所平成6.4.4,18訂版 執務資料 道路交通法解説859ページ)。

交通事故発生の認識については未必的認識でもよいとされていますが(横須賀簡易裁判所昭和38.4.19 ),事故があったことをまったく認識していなかった場合には,救護義務違反を認めることはできないでしょう。

交通事故について未必的認識すらない場合に,免許につき処分等を受けた場合には,処分取消訴訟等によって処分を争うことになります。処分につき争うような状況までなった場合には,弁護士の領域になりますので,詳しい弁護士に相談及び依頼をすることをお勧めします。