異議申立により後遺障害認定がされた場合の不法行為の起算点はいつか(結論:症状固定の診断時点)

交通事故によって受傷し,後遺障害認定のための申請(事前認定又は被害者請求)をしたにもかかわらず,後遺障害が認められないことがあります。

このとき,被害者の方が後遺障害認定に対して異議申立を行い,その結果,後遺障害等級の認定がされたとします。

この場合,交通事故に関する損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,いつになるのでしょうか。

具体的には,

令和2年2月1日 交通事故発生

令和2年8月1日 症状固定の診断

 令和2年10月1日 事前認定を申請したが,非該当の認定がされた日

令和2年12月1日 前記非該当の認定に対して異議申立をして,14級9号が認定された日

という場合に,交通事故に関する損害賠償請求権の消滅時効の起算点が,令和2年2月1日,令和2年8月1日,令和2年10月1日,令和2年12月1日のいずれになるのか,ということが問題になります。

このような場合,一見,後遺障害が認定された令和2年12月1日が,後遺障害を含めた損害賠償請求権の消滅時効の起算点のようにも思えます。

しかし,このような場合,症状固定の診断がされた令和2年8月1日が,損害賠償請求権の消滅時効の起算点とされていることに注意が必要です。

この点,「遅くとも上記症状固定の診断を受けた時には,本件後遺障害の存在を現実に認識し,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害の発生を知ったものというべきである。自算会による等級認定は,… 被害者の加害者に対する損害賠償請求権の行使を何ら制約するものではないから,上記事前認定の結果が非該当であり,その後の異議申立てによって等級認定がされたという事情は,上記の結論を左右するものではない(最判平16・12・24)」と最高裁で判断がされています(損害賠償請求における不法行為の時効131ページ)。

なお,大阪高判平6・1・25では,後遺障害を,①受傷時から相当期間経過した後のある時点で受傷に起因する後遺障害が初めて現われた場合(受傷当時においては当該後遺障害の発生を通常予想し得なかった場合),②受傷の部位と程度に照らすと,具体的な後遺障害の等級は別として,後遺障害の発生を一応一般的,抽象的に予見することができるものの,引き続き治療を継続中であって,症状が固定していない場合(結局,その後治癒せずに後遺障害が残り,症状が固定した場合),の2つに区分けした上で,それぞれの時効の起算点を決めています。

ちなみに,東京地裁交通部では,後遺障害が発生している場合,後遺障害による損害のみならず,それ以外の治療費・休業損害等を含めて症状固定時までは時効は進行せず,さらに後遺障害が発生しなくとも,治療を継続しておりいまだ損害額が確定していない段階で消滅時効を進行させるのは妥当でないとの考え方から,傷害損害は治癒時まで時効が進行しないとする扱いをしているとのことです。

ただし,大阪高裁管内ではこのような取扱に反対しているようで,裁判所の考え方にも差があります。