不法行為の後に和解契約をした場合の時効期間は何年か?(結論:10年になると考えられる)

昨年はみなさまに大変お世話になりました。

今年も取手総合法律事務所をよろしくお願いいたします。

首都圏では再度の緊急事態宣言発令となりましたが,当事務所ではアルコール・次亜塩素酸ナトリウムによる消毒,アクリルシールドの設置,換気の徹底をはかっております。

昨年4月から定期的なブログの更新を心がけるようにして,おおむね週1回の更新をすることができました。引き続き,週1回を目安に更新していきたいと思います。

さて,新年最初のお題です。

交通事故や火事などの不法行為による損害賠償請求権の時効期間は,3年と法定されています(民法724条1号)。

まず,不法行為に基づく損害賠償請求権が確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した場合には,一般的に10年の時効になります(民法69条1項)。

では,不法行為がされた後,当事者間で不法行為に基づく損害賠償請求権についてなんらかの合意(和解契約)が締結された場合,時効期間はその合意が締結された日から3年間になるのでしょうか。

まず大判昭7・9・30民集11・1868では,和解契約の内容が創設的であるか確認的であるかの基準に立ち,本来的な損害賠償債務の履行として一定金銭の給付を定めた場合は,不法行為による損害賠償債務という性質は変わらないから3年の消滅時効にかかると判断しました。

しかし,不法行為における3年の短期時効は,その起算点が,被害者において加害者及び損害を知った時という権利者である被害者の主観的態様にかかり,義務者である加害者が,外から客観的に認識しにくい時点に設定してあるため,加害者の免責証拠の収集・保存期間も不明確となり,このことから生ずる加害者側の不安定な法的地位からの早期解放という観点から,一般の10年より短期の3年という時効期間を定めたものと解されます。

ここでは,時効の起算点において,民法166条1項の特則であり,時効期間の点において,民法167条1項の特則となります。

とすると,不法行為債務につき,合意によりその債務の存在と履行期が和解契約として明確になれば,加害者も,和解契約に定められた債務の履行期から将来の弁済証拠の確保期間を計算することができ,その法的地位の不安定さも消滅することになります。

そうすると,3年という短期時効を適用する根拠が失なわれるというべきといえます。

そのため,時効期間としても,創設的であるか確認的であるかにかかわりなく,和解契約によるものとして,民法167条1項の原則に復帰して,10年の時効にかかると解すべきでしょう(損害賠償請求における不法行為の時効162ページ)。

ただし解釈論の問題になるので,訴訟で争点になった場合にどう判断されるかは明確ではありません。

可能であれば,和解契約によって時効障害事由(民法152条1項)が発生したときから3年以内に何らかの手続きを取ったほうが無難です。しかし,和解契約から3年が経過してしまっていたとしてもあきらめることはない,ということになります。