交通事故の物損について慰謝料請求が認められるか(結論:原則として認められない)

自動車事故が発生した場合に,搭乗者にはけががなく,物損しか生じないことがあります。

けががあった場合,被害者の方は加害者に対して通院日数や通院期間に応じた慰謝料を請求することができます。

では,物損のみの場合に物的損害の賠償に加えて慰謝料請求も認めてもらえるのでしょうか。

この点,交通事故事案ではありませんが,財産的損害に対する請求以外に慰謝料請求も認められるかを判断した最判S42.4.27では,「一般には財産上の損害だけであり, そのほかになお慰籍を要する精神上の損害もあわせて生じたといい得るためには,被害者(上告人)が侵害された利益に対し, 財産価値以外に考慮に値する主観的精神的価値をも認めていたような特別の事情が存在しなければならない」と判示がされています。

裁判例で財産的損害に対する請求に加えて慰謝料請求も認められている事案は,以下のように整理されています。

すなわち,①その財産的損害が社会通念に照らして被害者の精神的平穏を著しく害するような場合,②侵害された物件が被害者にとって特別な主観的・精神的価値を有していたとみるのが社会通念上相当であるような場合,③加害行為が害意を伴い著しく反道徳的であり,金銭賠償だけでは被害者の精神的苦浦が慰謝されないような場合などの事由を特別な事情の要素として考慮するというものです(損害保険の法律相談1<自動車保険>364ページ)。

このような事由がある場合,つまり物損についての財産上の損害に対する請求に加えて慰謝料請求まで認められる多くのケースでは,被害物件の主観的・精神的価値が賠償に値するほどの高度の利益があると認められる必要性, そのような主観的・精神的価値を有することが社会通念上相当と認められることが必要であり, あるいは, その被害物件に対する侵害が公序良俗に反するなどその侵害が特に悪質であるなどの事情が必要であるといえます。

通常の車両対車両(車両には四輪車・単車いずれも含まれます)の物損事故ではこのような特別の事情があるとまでは認められないため,物損のみの場合に慰謝料請求が認められる余地はほとんどありません。

しかし,事故によってペットが死亡した場合や,夜間に居宅に車両が突っ込んできて居住部分まで破壊されたような場合には,特別の事情が認められて慰謝料請求までできる余地があります。

ただし,ペットについては慰謝料請求が認められなかった事案もあり,認められたとしても数万円から数十万円程度であるため,飼い主の方が想定しているよりも金額は少ないかもしれません。