婚姻意思とは何を指すのか(結論:真に夫婦関係の設定を欲する効果意思があること)

婚姻の成立は,当事者に婚姻意思があることが前提です。

当事者に婚姻意思がない場合,婚姻は無効と定められています(民法742条1号)。

では,婚姻意思とは何を指すのでしょうか。

判例は仮装離婚の場合でも,「法律上の婚姻関係を解消する意思の合致」があるので,離婚は有効となるという立場を採っていますが,婚姻についても届出意思だけでは足りないのでしょうか。

この点,婚姻を約束した男女の間に子が生まれたものの,男は他の女性と婚姻をするために関係の解消を持ちかけたものの,女性が子を入籍したいと希望したため,いったん婚姻届を出したのちに,離婚届を出すという便宜的手続を認めざるを得なくなったものの,婚姻届を出した後に離婚が成立しなかったため,男が婚姻無効の訴えを提起したという事案で,以下のような判断をしています。

「当事者間に婚姻をする意思がないときとは,当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指すものであり,たとえ婚姻の届出自体について当事者間に意思の合致があり,法律上の夫婦という身分関係を設定する意思はあったと認めうる場合であっても,それが,単に他の目的を達するための便法として仮託されたものにすぎないものであり,真に夫婦関係の設定を欲する効果意思がなかった場合には,婚姻はその効力を生じない」と判示しました(最高裁S44.10.31,新注釈民法(17)142ページ)。

すなわち,届出意思だけでは足りず,真に夫婦関係の設定を欲する効果意思があることが必要となります。

ただし,届出時には婚姻意思がなかったとしても,婚姻意思が届出時にはなかった者が届出後におこなった行為によっては婚姻成立の追認があったと認められる場合があります。

具体的には,3人の子をもうけた後,離婚した夫婦が,子の養育の便宜上,再び同居をはじめ,2年後に妻が勝手に婚姻届を提出したものの,夫はそれを知った後も苦情をいわず,夫婦同様の生活を送っていたが,その後別居し,婚姻届出の12年後に夫が婚姻無効確認の訴えを提起した事案で,判決は,夫が区民税の申告書に妻と記載したこと,長女の結婚披露宴に共に出席したこと,私立学校教職員共済組合から妻として認定されながら夫は異議を唱えず,医療のため妻という記載のある組合員証を同人に使用させたこと等の認定事実から,夫による婚姻届の追認を認めたものがあります(最高裁S47.7.25,新注釈民法(17)145ページ)。

婚姻届が提出されている以上,無効を主張する者がそれを立証する必要があります。しかし同居しているなど外形的に見て夫婦と認められるような行為をしていた場合には,無効であるとすぐに認められるわけではないと考えられます。