請負契約の「仕事の完成」とは何を指すのか(結論:予定の工程が一応終了したとき)

請負工事において,「仕事の完成」が請負人の債務となります(民法632条)。

「仕事の完成」に至っていないのであれば注文主は契約解除をすることができ(民法641条),請負人は報酬の全部を注文主に請求することができません(民法634条1号)。請負人の債務は未履行のままで,注文主は完全な履行を請求することができます。

これに対して「仕事の完成」に至っていれば,目的物に生じている問題については契約不適合責任に基づく問題となります(民法636条)。

弁護士実務としては注文主の側だと,報酬を減額した額でしか支払えないと主張するのか(民法634条1号),契約不適合責任に基づく履行の追完の請求・報酬の減額の請求・損害賠償の請求及び契約の解除を主張するのか(民法636条)という違いが生じてきます。

金額はどちらにせよ同一になるのかもしれませんが,別個の訴訟物であるため,原告として訴訟提起するような場合にはきちんと切り分けておく必要があります。

では,「仕事の完成」とは具体的にどのような状態ないし状況を指すのでしょうか。

東京高等裁判所S36.12.20では,「仕事の結果が不完全な場合に,それを仕事の未完成と見るべきか又は仕事の目的物に暇疵があるものとみるべきかの明らかでないことがあり得るけれども,工事が途中で廃せられ予定された最後の工程を終えない場合は工事の未完成に当たるものでそれ自体は仕事の目的物の暇疵には該当せず,工事が予定された最後の工程まで一応終了し,ただそれが不完全なため修補を加えなければ完全なものとはならないという場合には仕事は完成したが仕事の目的物に暇疵があるときに該当するものと解すべきである。」と判示がされています。

これは予定の工程終了説と呼ばれ,「仕事の完成」について具体的には「工事が予定された最後の工程まで一応終了」しているか否かという基準で考えるものです。

実務上,「仕事の完成」の基準としては定着しており,この基準に従って債務が未履行なのか,または債務は履行されているが契約不適合責任があるのか判断されることとなります。

また,予定の工程が終了していないのであれば注文主は請負代金の支払い請求を拒絶することができます。

しかし,予定の工程が終了しているのであれば,請負人は,目的物の引渡しと引き換えに請負代金の支払いを請求できることとなります。

これに対し,注文者は,単に目的物に暇疵があるというのみで代金の支払いを拒絶することはできず,契約不適合責任を主張して請負人に契約不適合部分の修補を請求し,修補が完了するまで代金の支払いを拒絶するか(旧法の「瑕疵」につき東京高等裁判所S47.5.22),修補に代わるないしこれとともに契約不適合につき損害賠償を請求してこれと請負代金債権との相殺を主張する(旧法の「瑕疵」につき大阪地方裁判所S49.6.6)ことになります(建築請負・建築暇疵の法律実務81ページ)。

このような仕事の完成が問題となるのは多くは建築物かと思われます。

建築物の問題やリフォームの紛争は,注文主が請負人に請求することには法的な難しさがあります。また請負人としても言い分があることが多く,裁判所も双方の主張を良く聞いてから慎重に判断していると感じます。

もしこのような紛争に巻き込まれてしまった場合には,請負契約や建築物の問題についてよく理解している弁護士に早期に相談することをお勧めします。