合名会社・合資会社の無限責任社員は破産により退社することができるのか(結論:定款に定めがない限り退社できる)

会社法は持分会社として,合名会社・合資会社・合同会社という会社組織の規定をしています(会社法575条1項)。

かなり昔は有限会社は最低資本金300万円(現在の会社法では有限会社の規定はなくなりました),株式会社は最低資本金が1000万円とされていたため,資本金に乏しい場合に合名会社・合資会社(そのころは合同会社という会社組織は規定されていなかった)という会社組織を選択することがありました。

しかし最低資本金の制限が撤廃され,株式会社も資本金1円で設立できるようになってからは,資本金を理由として合名会社・合資会社を選択することはなくなりました。

これらの会社の出資者は社員と呼ばれます。これはいわゆる従業員を指すのではなく,会社に出資した構成員のことを指します。

そして合名会社の社員は全員が無限責任社員,合資会社の社員は無限責任社員と有限責任社員,合同会社の社員は全員が有限責任社員になります(会社法576条2項ないし4項)。

この「無限責任」とは,「連帯して,持分会社の債務を弁済する責任」を指します(会社法580条1項本文)。

簡単に言うと,持分会社の支払い(債務)について連帯責任を負うことになります。

持分会社が支払いできない場合に無限責任社員が支払いをしなければならないわけですから,非常に重い責任と言えます。会社組織は取引を繰り返す組織ですから,その債務は個人の場合と比べて金額が大きくなりがちです。そのような債務の支払い義務を無限定に負うということは,時として無限責任社員である個人にとって過大な負担となることがあります。

そのような場合には,退社することによって社員の地位を失うとともに(会社法610条,611条参照),退社以降の社員の義務を免れる(会社法612条)ことを検討しなければなりません。

社員が退社しようとするときには,いくつか会社法で定められた手段をとることになります。

まず予告による退社(会社法606条1項)という方法がありますが,定款の定めによっては予告による退社が実質的に困難な場合があり,また予告してから実際に退社できるまでかなり期間が必要になることから,使い勝手はあまり良いとは言えません。

次に「やむを得ない事由」による退社(会社法606条3項)も,やむを得ない事由があるのかどうかということで争いになることがあり,いつでも使えるというわけではありません。

一般的には総社員の同意により退社すること(会社法607条1項2号)が多いようです。しかし会社が順調な場合は問題ないでしょうが,会社の債務が大きな額になった場合に義務を負う社員が減るということが許容されない場合があり,その際には総社員の同意がえられないことも十分ありえます。

しかし個人では支払いきれないほどの会社の支払い,すなわち会社債務についていつまでも無限責任を負い続けるわけにはいきません。

金融機関からの取り立て等もあるでしょうから,このような状況になってしまうと社員である個人が破産手続きをとることも選択肢の一つになってきます。

持分会社の社員については,破産手続開始の決定が退社事由の一つとされています(会社法607条1項5号)。

社員としての無限責任は退社すればなくなります(会社法612条)。

そして破産手続開始決定時までに発生していた債務は原則として免責の対象となるため,免責決定がされれば会社債務についての無限責任を免れることになります。

ただし,持分会社は定款の定めで破産手続開始の決定がされても退社しないと定めることが可能で(会社法607条2項),もしこのような定款の定めがある場合には,例外的に破産手続開始の決定以降の会社債務についても無限責任を負うことになってしまいます。

無限責任社員の責任が過大になってしまった場合に,破産手続によりこれまで発生した債務について免責を受け,かつ破産手続開始決定により退社して将来の債務を負わないようにすることで一気に解決を図る手段が考えられますが,定款の定めを事前に確認しないと思わぬ結果を招く可能性があります。

会社法は商法から分離されて別の法律になった際に条文数が大幅に増えたため,細かな点まで把握している弁護士が意外に少ない分野になります。会社法に関して問題が生じた場合には,会社法についてよく把握している弁護士に相談することが大切かと思われます。