取締役の解任事由は解任当時に会社が認識していた事情に限られるか(結論:限られない)

株式会社の取締役は,株主総会決議によって取締役の任期中であっても解任することが可能です(会社法339条1項 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。)。

では,取締役の解任事由は解任当時に会社が認識していた事情に限られるのでしょうか。

例えば,株主総会で解任決議をした際に説明した理由(事情)だけではなく,他の事情をもって解任に正当な理由ありと判断されるのか,ということが問題になります。

この点,解任の訴えの要件である職務執行に関する不正の行為や法令・定款に違反する重大な事実は、解任議案の否決以前に生じた行為や事実でなければならないけれども,必ずしも当該解任議案を審議する株主総会の招集前又は開催前に生じた行為や事実である必要はないと解されていて,その旨を判示した裁判例(高松高決平成18.11.27)があります(論点体系会社法340ページ)。

高松高決平成18.11.27は,「そして,前記(3)の解任事由が「あったにもかかわらず」とは,会社法854条1項の規定の仕方に照らすと,当該役員解任議案が否決された後に当該役員について生じた不正行為又は法令若しくは定款に違反する重大な行為をもって取締役解任の訴えの解任事由とすることはできないが,当該役員解任議案が否決された時点までに生じた解任事由については,取締役解任の訴えの解任事由とすることができることを意味するものと解するのが相当である。なぜなら,取締役等の役員はいつでも株主総会の決議によって解任されるが(同法339条1項),同法上,取締役解任決議の理由については必要とされておらず,ただ,解任に正当事由がない場合には,解任後に取締役であった者が株式会社に損害賠償を求めることができるにすぎない(同条2項)とされていること,同法上,取締役解任の訴えの要件である取締役解任事由がいつまでに生じていることを要するのかについては何らの規定をしておらず,また,株主総会の議事進行においても,取締役解任議案の審議の過程で当該議案の提案理由や質疑応答がなされ,その上で当該議案の決議が行われるのが通常であると考えられ,審議の過程で当該議案の提案理由を追加又は変更することは可能であると解されることからすると,取締役解任事由を株主総会開催前までに生じた事由に限定すべき合理的理由を見出すことができないからである。」と判示しています。

また,東京地方裁判所平成30年3月29日も,「解任の正当な理由となる事情が解任当時会社が認識していたものに限られるかについて
 原告は、本件解任時点で被告らが認識していなかった事情は、本件解任の正当な理由の根拠とはなり得ない旨主張する。
 しかしながら、会社法339条は、1項において株主総会決議による役員解任の自由を保障しつつ、2項において当該役員の任期に対する期待を保護するため、解任に正当な理由がある場合を除き、会社に特別の賠償責任(法定責任)を負わせることにより、会社及び株主の利益と当該役員の利益の調和を図ったものと解されることに加え、同条において、役員を解任するに当たり、会社の故意過失や当該役員への解任事由の告知は要件とされていない上、「正当な理由」を会社が認識していた事情に限定する旨の規定も存在しないことからすれば、正当な理由の根拠となる事情は、本件解任時点で客観的に存在していれば足り、被告らが認識していることまで要しないというべきである。
 よって、原告の上記主張は採用することができない。」と判示しています。

 正当な理由がまったくない場合には,取締役が会社に対して損害賠償請求することは可能ですが(会社法339条2項),株主総会で示されなかった正当な理由がある場合には,取締役が会社に対して損害賠償請求することはできないということになります。

取締役の解任は,大企業だけの問題ではなく,親族だけで経営している企業においても発生しうる問題です。

親族だけで経営している企業の場合,株主総会の開催等についても不慣れな場合があり,法に則って手続を踏まなかったために後に訴訟を含めた紛争が発生することもありえます。

社内での紛争はやっかいではありますが,適正な手続に従って行わないと,無用な紛争を誘発することになりかねません。紛争が発生する前に,弁護士に法的な見解を求めることが重要と思います。