試用期間経過後に本採用を拒否するのは自由か(結論:客観的に合理的な理由がある場合に限られる)

雇用する場合に,雇用側は労働者に対して試用期間をもうけることがあります。

試用期間経過後に,雇用側は本採用をするかしないか,まったくの自由なのでしょうか。

この点,試用期間中の労働契約は,採否決定までの段階では十分調査ができない資質,性格,能力について,さらに観察・調査をした上で,最終的な採否を決定するための解約権付きの労働契約であるとされています(三菱樹脂事件:最大判昭和48年12月12日)。

本採用拒否は,上述の留保された解約権の行使に当たります。

解約権行使は,いわゆる正社員の普通解雇に比べると,使用者に裁量の幅が認められる余地がありますが,解雇であることには変わりないため,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認された場合にのみ許されるものです(労働契約法16条)。

この「客観的に合理的な理由」の判断においては,試用社員が既に労務を提供していることに鑑みて,正社員に対する解雇よりは使用者の裁量の幅が広いとしても(東京地判昭和57年5月31日,同控訴事件:東京高判昭和58年12月14日),労務の提供が行われていない内定取消しの場合よりは厳格に判断する傾向にあります。

実際には,本採用前の暴力的事件への関与の発覚や,欠勤・遅刻などの勤務不良の程度が平均的な労働者を下回り改善の可能性がない場合や会社の業況の悪化などの理由が必要とされています。

前掲三菱樹脂事件:最大判昭和48年12月12日は,解約権の行使が認められるのは,「採用決定後における調査の結果により,または試用中の勤務状態等により,当初知ることができず,また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において,そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが,上記解約権留保の趣旨,目的に徴して,客観的に相当であると認められる場合」であると判断しています。

本採用拒否の有効性の判断においては,試用していた当該労働者の能力や資質がどの程度低いのか,改善の見込みがあるのかが重要となります。

そのため,労働者の能力や資質を具体的かつ客観的に明らかにし,指導等を行う場合には指導の内容とその結果を記録する必要があります。登用試験等の試験も,能力を客観的に把握するためには有用です(新労働事件実務マニュアル第5版46ページ)。

試用だから本採用をするかはまったくの自由ということにはならないため,雇用側はきちんと必要様な対応を事前に準備しておく必要があるということになります。