養育費について審判前の保全処分ができるか(結論:できない)・養育費請求前の養育費を支払ってもらえるか(結論:財産分与等で考慮)

家事事件手続法は105条で,審判前の保全処分という手続を定めています。

第105条1項 本案の家事審判事件(家事審判事件に係る事項について家事調停の申立てがあった場合にあっては、その家事調停事件)が係属する家庭裁判所は、この法律の定めるところにより、仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他の必要な保全処分を命ずる審判をすることができる。

では,養育費の支払を求める調停申立をした際に,養育費の支払を保全するため審判前の保全処分を利用することはできるのでしょうか。

審判前の保全処分ができる手続は家事事件手続法の各手続の各条項に定めがされています。

類型としては,①財産の管理者の選任等の保全処分,②財産管理者の後見等の保全処分,③職務執行停止等の保全処分,④仮差押え・仮処分その他の保全処分にわけることができます。

しかし,④仮差押え・仮処分その他の保全処分をとることができると定めている手続は,以下の手続に限られます。

夫婦の同居・協力・扶助(157条1項1号)

婚姻費用の分担(157条1項2号)

子の監護(157条1項3号)

財産分与(157条1項4号)

夫婦財産の管理者の変更および共有財産の分割(158条1項)

親権者の指定変更(175条1項)

遺産分割(200条)

審判前の保全処分が可能な手続として,婚姻費用の分担(157条1項2号)はありますが,養育費の支払には定めがありません(新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法314ページ)。

そのため,養育費の支払を求める調停申立をした際に養育費の支払を保全するため審判前の保全処分を申し立てることはできないということになります。

また,養育費の支払始期について,多くの家庭裁判所では調停・審判申立により養育費請求がされた時期を始期としています(Q&A 離婚実務と家事事件手続法244ページ)。

では,離婚して養育費の請求をするまでの間にもらえるはずであった養育費を,養育費の支払義務者に支払ってもらうことはできないのでしょうか。

この点,別居後に支払った子の監護費用については当事者が過当に負担した婚姻費用の精算のための給付も含めて財産分与の額を定められると判例はしています(最判S53.11.14)。

また,離婚請求を認容する判決において,「子の監護に関する費用」として別居後離婚までの監護費用の支払を裁判所が命ずることもできるとされています(最判H9.4.10)。

請求前の養育費については,いわゆる精算的財産分与の一部分として,考慮がされて義務者に支払義務が発生することになります。