賃貸借契約終了後の違約金または賃料相当額に遅延損害金(利息)はつくのか(結論:約定違約金の場合は定めがないと利息がつかなかった)

賃貸借契約が賃借人の賃料不払いによって契約解除されて以降退去しない場合か,または賃貸借契約の合意解除後の退去日に賃借人が退去しなかった場合があります。

このとき賃貸借契約は解除されているものの,賃借人は賃貸物件を利用しているため,賃借人は賃貸人に対して何らかの支払義務が発生します。

よくあるのは,賃貸借契約締結時に,賃貸借契約解除後又は退去予定日以降は賃料倍額の違約金支払義務を賃借人に課すという条項を契約中に入れておくことです。

このような違約金支払義務を定めていなかったとしても,賃借人が賃貸物件を利用している以上,賃借人には少なくとも賃料相当額の支払義務が発生することとなります。

では,これらの違約金・賃料相当額の支払に,遅延損害金(利息)はつくのでしょうか。

まず,賃貸借契約解除後又は退去予定日以降の違約金の支払義務(損害賠償の予約)を契約中にしている場合で,かつその違約金に遅延損害金(利息)の定めがない場合には,遅延損害金(利息)を付すことはできませんでした。

これは改正前民法民法420条1項が「当事者は,債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において,裁判所は,その額を増減することができない。」と定めており,この条文解釈として賃貸借契約の解除後の約定違約金が過大ではないかという議論がされており,解除後の約定違約金が420条の射程にあったためです(新版注釈民法(10-2)622ページ)。

解除後の約定違約金が420条1項の射程範囲だとすると,420条1項後段が適用され,約定にある違約金以上の金銭(遅延損害金)も支払請求できない,という帰結になると考えられます。

しかし逆に言えば約定違約金に利息の定めがされていれば,約定違約金に利息が付けられることとなります(東京地判平成19年11月14日,東京地判平成28年5月24日)。

この場合とは異なり,約定違約金の定めがそもそもされておらず,賃料相当額の損害金が発生する(不法行為責任)のであれば,この損害金には遅延損害金を付すことができるのが理論的な帰結です。

この点,実務慣行として約定違約金の定めがない場合にも遅延損害金を付していないことがほとんどのようです。

これは日割り計算で損害金元本と遅延利息の計算をしなければならないのと,将来の損害金部分について正確に請求の趣旨で書けない(日割り計算で小数点以下を切り上げしても切り捨てしても過剰請求か過少請求になる),請求するにしても計算が非常に煩雑,しかも賃貸借契約解除を前提とした訴訟では解除後の約定違約金ないし賃料相当額の請求は動産執行のためだけでそれほど細かく請求しなくても実務上実害がなかった,という理由ではないかと推測されます。

なお,「損害金には損害金がつかない」という説明をする方がいるようですが,交通事故等の不法行為損害賠償責任には遅延損害金が当然に付されますし,このような説明は明らかな誤りと考えられます。厳密には損害金は「元本たる損害金」と「利息債権たる損害金」に分けられ,「利息債権たる損害金」に「利息債権たる損害金」が付されない(原則として複利にならない,なお例外として民法405条の法定重利)ことは理解できますが,「元本たる損害金」には「利息債権たる損害金」が付されることは当然であるためです。

ここまでの説明は改正前民法下での考え方になりますが,民法が改正されて「この場合において,裁判所は,その額を増減することができない。」という文言が削除されました。

この文言がなくなったことにより,約定違約金の定めに利息が付されていないとしても,民法ないし商法所定の遅延損害金(利息)を付すことは,解釈上許されるのではないかと考えられます。