不動産の共有関係から脱退することはできるか(結論:持分放棄により可能)

共有不動産については,共有者の一人が他の共有者の管理の費用もまとめて支払って(民法253条1項),他の共有者が義務履行しないことを理由として,相当の償金を支払うことで他の共有者の持分取得をしてしまう(民法253条2項),という手法があります。

この手法は共有不動産の一部の共有部分のみを競落した者が,他の共有者を排除して単一所有者の不動産とするために行う手法です。共有地だと不動産売買を円滑に行うことは難しいのですが,単一所有者になれば容易に不動産を換価することが可能になります。

しかし,不動産に価値がある場合はともかく,価値のない不動産(山林や田畑,原野や雑種地)を共有していると,税金の負担や管理の負担という問題が生じてきます。

このように負担が生じてしまう不動産である土地をABCの三者がそれぞれ持分3分の1ずつで共有している場合,共有者Aは共有関係から脱退することはできるのでしょうか。

共有については民法255条で「共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。」と定めています。

つまり,共有持分の放棄をすることが可能です。

この放棄は単独行為とされていますが(新版注釈民法(7)463ページ),放棄したことを立証するために書面に公証役場で確定日付をもらうか,または他の共有者に対して放棄したことを内容証明郵便で送付するなどしておいたほうが間違いないでしょう。

共有関係から脱退した後,放棄した元共有者の持分は残った共有者の持分割合に応じて移転することになります。

そして持分の変更について登記も行わなければなりませんが,先ほどのABCの例の場合,Aの持分放棄によるB及びCへの持分移転の登記は必ずしも一の申請情報によってする必要はなく,Bに属した持分についてはAとBの共同申請により,Cに属した持分についてはAとCの共同申請により,各別の申請によりすることができるとされています(不動産の共有と更正の登記をめぐる理論と実務305ページ)。

ここでBCが登記に協力しない場合はどうなるのでしょうか。

この場合,AからBCに対してAが放棄した持分について,登記引取請求権を訴訟物とした訴訟提起をすることになります。

登記引取請求権が認められるかは以前争いがあったようですが最判S36.11.24でこの権利が認められたため,実務的には決着がついています(不動産登記訴訟81ページ)。

不動産はこれまでは資産として捉えられていましたが,現在では使い道がなく負担のみが発生する不動産を指して「負動産」なる造語も登場しています。

いつまでも共有関係に残ったままだと負担だけが増えていくこともありえるため,場合によってはどこかの時点で不要な不動産の共有関係からは脱退することも選択肢だと思います。