未成年者が相続人の場合に熟慮期間と単純承認は何を基準に判断するのか(結論:法定代理人を基準とする)

相続事件で,相続人が未成年の場合があります。

相続人が未成年の場合,相続人は成年になるまでいつまででも相続放棄をすることができるのでしょうか。

これは相続放棄ができなくなる条件である,相続放棄の熟慮期間(民法915条1項)の徒過の起算点をいつと考えるのか,相続放棄ができなくなる単純承認(民法921条各号)を誰と基準として考えるのか,ということの裏返しです。

 

まず,熟慮期間の起算点ですが,未成年者の法定代理人(一般的には親ですが,後見人の場合もあり得ます)が,未成年者のために相続の開始があったことを知った時点が起算点となります(Q&A限定承認・相続放棄の実務と書式115ページ)。

未成年者が「知ったとき」ではありません。

つまり法定代理人がいる場合は,未成年の時点であっても熟慮期間の徒過により相続放棄ができなくなる可能性が十分あるということです。

ただし未成年者で法定代理人が存在していない場合には,法定代理人が選任されて未成年者のために相続の開始があったことを知った時点か,または未成年者が成人して行為能力を備えたときが,それぞれ熟慮期間の起算点となります。

次に単純承認が認められる場合ですが,未成年者ではなく法定代理人が相続財産の処分を行った場合には,その行為により未成年者について単純承認の効果が発生します(Q&A限定承認・相続放棄の実務と書式114ページ)。

なお,法定代理人の行為が未成年者と利益が相反する行為を行ったとしても,外部的には単純承認したものとされ,未成年者の不利益については法定代理人と未成年者の間で内部的に処理されるものになると考えられます。

この点,未成年者ではなく成年後見人が限定承認をなすにあたり悪意で相続財産を相続財産目録に記載しなかった(民法921条3号により単純承認となる)事案で,成年被後見人に単純承認の効果が発生するとした判例があります(大判大正13.7.9)。

相続の際,金融機関等から未成年者を含めた相続人全員の押印書面を求められることがありますが,未成年者の親が安易に押印書面を作成して差し出してしまった場合,その行為によって未成年者も単純承認があったものとされてしまうこととなります。

被相続人に返済すべき金銭が存在している場合には,相続開始後,できるだけ早く弁護士に相談されることをおすすめします。