遺留分の放棄はできるか(結論:相続後は自由に可能,相続前は家裁の許可が必要)

法定相続人には遺留分(法定相続分のさらに半分または3分の1,民法1042条1項各号)という権利があり,被相続人が法定相続人に相続する財産がないような遺言書を作成していても,遺産の一部を受け取る権利が認められています。

では,この遺留分を放棄することはできるのでしょうか。

まず,相続開始後(被相続人死亡後)は,遺留分の放棄は自由にできます。放棄の意思表示は,遺留分減殺請求権を行使する相手方(具体的には,相続財産を相続していて遺留分を侵害している相続人)に対してする必要があります(家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第三版)501ページ)。

次に,相続開始前(被相続人が存命中)に遺留分の放棄をすることはできるのでしょうか(遺留分の事前放棄)。

これは民法1049条1項で「相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。」(なお家事事件手続法216条1項2号,別表第1の110)と定められていることから,家庭裁判所に申立をして,許可がされれば可能となります(家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第三版)499ページ)。

ただし,遺留分の放棄は相続放棄などとは異なり,ほとんど無条件で申立が許可されるわけではないようです。

遺留分放棄の申立については,平成27年度の既済件数1162件,うち許可件数1076件で,90%以上が許可されているとはいえ,許可されない申立もあるということです(遺留分の法律と実務(第二次改訂版)50ページ)。

許可されない理由としては,申立人の真意ないし自由意思に基づく申立か疑問がある,申立人が損害を被る恐れがあるなどとなっています。

相続放棄の場合とは異なり,被相続人の生前における遺留分の放棄(遺留分の事前放棄)の場合には,放棄に至る事情の具体的な説明・放棄によって発生する状況を申立人が正確に理解しているか等,申立書にきちんとした記載をして裁判所に理解してもらう必要があると言えそうです。