家事事件において裁判官の忌避はいつまでできるか(結論:原則として裁判官の面前において事件を陳述するまで)

裁判手続では,裁判官には予断を持たずに審理をしてもらい,中立公正な立場から判断をしてもらう必要があります。

この点,事件当事者と裁判官に身分関係等がある場合には,裁判官の除斥という制度が定められ,除斥される場合の要件が手続法で法定されています。

では,裁判官に除斥される要件がないけれども,裁判手続の公正さを疑わせる事情がある場合には,どのような手続がされるのでしょうか。

例えば,当該事件の一方当事者が裁判官の内縁の妻であるとか,親戚または友人で特別懇意な関係があるとき,あるいは逆に怨恨関係にあるとき、当該事件の勝敗や結果に特に経済的な利害関係を有するとき,当該事件について私鑑定書を出したことがあるときなどが挙げられます。

このような事情がある場合,当事者は裁判官を「忌避」するという申立ができます。

ここで,忌避の申立はいつまでできるのでしょうか。

たとえば,調停や審判が終盤になったときに,忌避申し立てすることもできるのでしょうか。

この点,家事事件手続法では,11条2項で「当事者は、裁判官の面前において事件について陳述をしたときは、その裁判官を忌避することができない。ただし、忌避の原因があることを知らなかったとき、又は忌避の原因がその後に生じたときは、この限りでない。」と定めています。

いつまでも忌避申立てを許すことは手続遅延をまねくおそれがあります。

そこで当事者が,裁判官の面前において事件について陳述をしたときは。原則として忌避権を失うものとされています。これは当事者が担当裁判官を知りながらこれを信頼する態度を示したものとみられるからです。

ここにいう陳述とは,民事訴訟法12条の場合と異なり,本案に関するものに限らず,期日の延期申請や審判申立て却下の申立てなど,手続上の陳述も含まれると解されます(新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法142ページ)。

ネット上では弁護士が「いつまででも申し立てできる」と回答している内容が見受けられますが,そのような解答は誤りということになります。

上記の申立権喪失の例外として,忌避の原因があることを知らなかったとき,または忌避の原因がその後に生じたときは、なお忌避申立が可能です(本条2項但書)。

ただし,忌避事由の不知または忌避事由の発生については,その事情を疎明しなければなりません(家事手続規則10条3項後段)。

これらの疎明を怠ったときは,忌避の申立ては却下されることになります。

なお,忌避事由の不知には,過失の有無を問われませんが,当事者,法定代理人または訴訟代理人のいずれかが知っていれば不知とはならない,と解されています。