身分行為に伴う財産移転に対して詐害行為取消権を行使できるか(結論:超過部分等の取消は可能)

離婚や財産などの身分行為に伴い,財産の移動が生じることがあります。

まず離婚について考えてみましょう。

たとえば,Aさん(財産1億円を所有)とBさんが婚姻をしていて,CさんがAさんに1億円を貸していたけれども,AさんとBさんが離婚してしまった場合に問題が生じます。

CさんはAさんの1億円の財産があれば返済は確実だと思って,1億円を貸しているわけです。しかし,離婚に伴う財産分与等の名目で,AさんがBさんに対して財産を移転させてしまうと,Cさんは貸付金(債権)の回収が難しくなってしまいます。

まず,離婚そのものは身分行為であるため,この離婚自体をCさんが取り消すことはできません(民法424条2項)。

では,AさんがBさんに対して行った財産分与や慰謝料の支払も取り消すこと(民法424条1項)ができないのでしょうか。

この点,財産分与について最高裁は,財産分与及び慰謝料の支払につき,不相当に過大な部分については詐害行為取消権の対象であると判示しました(最判平成12.3.9)。

財産分与や慰謝料支払の全部が取消の対象となるのではなく,超過部分についてのみ一部取消を認めた点に意味があります。

 

次に相続によって財産移転が生じた場合の問題です。

まず,相続放棄については以前書いています。

www.toridelaw.comでは,遺産分割協議についてはどうでしょうか。

たとえば,DさんとEさんが父親の相続(相続財産1億円)をした場合に,Eさんに全部相続させるという遺産分割協議をしたとき,Dさんの債権者であるFさん(Dさんへの貸付5000万円)が遺産分割協議の取消をできないか,というときに問題となります。

もし法定相続分通りにDさんとEさんが相続をしていれば,Dさんは5000万円を保有することになりますから,Fさんは債権回収が確実にできます。

この点,遺産分割協議について最高裁は,遺産分割協議が財産権を目的とする法律行為であることを理由として,取消しを認めています(最判平成11.6.11)。

 

なお,破産事件においても破産者の財産行為が問題となることがありますが,破産管財人の否認権行使(破産法160条1)においても上記と同様の処理がされることとなります。