直前停止(直前停車)した車両に過失割合が認められるのか(結論:停止(停車)した車両の停車位置,停止(停車)してからの時間経過などによって過失がある場合もない場合もありうる)

交通事故が発生したときに,一方当事者が停止(停車)していたにもかかわらず,相手方保険会社から「直前停止(停車)なので過失がある」と主張されるときがあります。

直前停止(停車)につき,「衝突の3秒前以内の停止(停車)だと過失が発生する」と説明するブログも存在しているようです。

それでは,実際に裁判で直前停止(停車)が争われたとき,裁判所はどのように判断しているのでしょうか。

まずは,10%の過失割合を認めた裁判例です(太字にした部分及び(省略)と記載された省略部分は当職記載)。長いのですが,きちんと読まないと誤解してしまうため引用します。

「(1) 前記前提事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 本件道路は都道d号線方面から西に延びる一方通行の規制のある道路である。車道の幅員は3メートルないし4メートルであり、両側に幅員0.9メートルないし1.1メートルの路側帯が設けられている。
 本件道路は平坦な直線路であり、前後の見とおしは良い。
 本件道路の両側にはマンション等が建ち並び、本件事故現場付近には本件道路の南側路外に本件駐車場がある。本件駐車場には5つの駐車区画がある。
イ 被告は、平成20年9月27日午後10時50分頃、被告車を運転し、本件道路を走行中、本件駐車場に差し掛かり、空いていた東から2番目の駐車区画に駐車するため、本件駐車場の前を通過し、本件駐車場の西端付近に一旦停止し、ハザードランプを点灯させ、ハンドルを切って、時速約5キロメートルないし6キロメートルで左後方に向けて後退を開始した。
 被告は、後退を開始する際、約30メートルないし40メートル後方に、本件道路に左折進入してくる原告車を認めたが、被告車のバックモニターを見ながら、そのまま後退した。
ウ 原告は、同時刻頃、原告車を運転し、都道d号線の側道から左折して本件道路を進行中、被告車が後退進行してくるのを認め、本件駐車場の東から2番目の駐車区画付近で停車したところ、停車直後に原告車の前部に被告車の後部が衝突した。
 被告は、衝突して初めて原告車の存在に気付き、ブレーキを踏んで停止した。
エ 本件事故により、原告車のフロントバンパ中央付近の上部(ナンバープレートの上部)及びラジエーターグリルを中心に変形・割れ、擦過傷等が生じた。

 (省略)

 (3) 上記認定事実によれば、被告は、本件道路を後退して路外駐車場に進入するに当たり、後退開始後の後方注視を怠った結果、原告車と衝突するまで後方の原告車が近接していることに気付かなかった過失があり、その過失は重い。他方、原告にも、前方の被告車の動静に注意すべき義務に違反し、被告車が後退することが予見できる状態であったにもかかわらず、被告車の駐車区画への進入経路付近まで原告車を走行させて衝突直前に停止した点において、なお不注意な点があったというべきである。
 以上に照らすと、原告について10%の過失相殺をするのが相当である。」(D1-LAW,平成27年2月26日/東京地方裁判所/民事第27部/判決/平成23年(ワ)37519号)

次に,停止(停車)した側に過失はないとした裁判例です(太字にした部分は当職記載)。

「結局のところ,既に認定及び説示したとおりの各車両の損傷状況,Y1車の動線及び走行態様(低速で徐行したこと),後退開始から衝突までの時間に係る第1事件原告及び第1事件被告の供述内容等を踏まえると,Y1車が後退を開始してからX1車に衝突するまでの時間は,各供述の中間的な数値であるせいぜい3又は4秒程度であったと考えるのが最も自然であり,既に認定及び説示したとおりの事実関係を併せ考慮すれば,X1車の停止位置は,別紙1記載(ウ)の地点よりもう少し北側の地点であり,かつ,Y1車が同①の地点付近(同地点から若干東側寄りの地点の可能性もある。)から南北道路に平行な態様で後退直進した場合にY1車の後部右側とX1車の前部左側が衝突する位置(同(ウ)の地点よりもう少し西側の可能性もある。)であったものと認められる。

 なお,別紙1記載の駐車トラックの存否については当事者間に争いがあり,その存否については証拠上判然としないものの,各車両の位置関係を含む本件事故の態様は前記認定のとおりであり,駐車トラックの存否は双方の過失の有無及び割合を検討する上で特段有意な事実であるとは言い難い(仮に,第1事件被告の供述のとおり,駐車トラックが存在しなかったとしても,そのことから直ちにX1車が本件駐車場の西側出入口から進入したものと認めるには足りない。)から,この点については検討するまでもない。
イ 本件事故の態様は既に認定したとおりであり,第1事件被告は,本件駐車場内の駐車区画ではない場所に停止していたY1車の後退を開始したのであるから,発進の際には後方の安全を確認するとともに,後方で停止しているX1車の動静に留意しつつ進行しなければならない注意義務を負っていたというべきである。しかし,第1事件被告は,同義務を怠り,漫然とY1車を後退させて本件事故を発生させたのであるから,この点に過失が認められる。
 よって,第1事件被告は,民法709条に基づき,本件事故により第1事件原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。
ウ 他方,第1事件原告は,前方で停止していたY1車のブレーキランプが点灯したのを認識してX1車を一旦停止させており,Y1車の動静に留意しつつ進行していたことが認められる。また,Y1車が後退を開始してからX1車に衝突するまでの時間が前記認定のとおりであることに照らすと,X1車がY1車の後退を阻む形で直前停止したものとはいえない。さらに,第1事件原告がX1車のクラクションを鳴らしたか否かについては当事者間に争いがあり,第1事件原告の供述以外の的確な証拠はないものの,前記認定のとおりの各車両の位置関係等を含む本件事故の態様に照らすと,仮に,第1事件原告がクラクションを鳴らしていなかったとしても,そのことが直ちに第1事件原告の過失を基礎付ける事情になるとまではいえない。
エ 前記イで認定及び説示したとおりの第1事件被告の基本的過失の内容,既に認定したとおり,第1事件被告は衝突時までX1車の存在に気が付いておらず,このことは第1事件被告による後方の安全確認が極めて不十分であったことを推認させる事実であり,過失の程度は著しいものと認められること,前記ア及びウで認定及び説示したとおりの事情等に照らすと,本件事故はY1車による純然たる逆突事故であると認められるから,第1事件原告に相殺されるべき過失は存在しないというべきである。
 以上によれば,本件事故の過失割合は,第1事件原告側が0割,第1事件被告ら側が10割である。」(判例秘書,大阪地方裁判所判決/平成30年(ワ)第10343号、平成31年(ワ)第1101号、平成31年(ワ)第1104号)

これらの裁判例を根拠に,「衝突前3~4秒以内の停止(停車)では,停止(停車)した側にも過失割合が認められる」と説明されることもあるようですが,果たして正しい説明でしょうか。

前段の東京地裁の裁判例では,過失を認める根拠として「原告にも、前方の被告車の動静に注意すべき義務に違反し、被告車が後退することが予見できる状態であったにもかかわらず、被告車の駐車区画への進入経路付近まで原告車を走行させて衝突直前に停止した点において、なお不注意な点があった」という理由を挙げています。

この理由を細かく見ていくと,①被告車の駐車区画への進入経路付近まで原告車を走行させて,②衝突直前に停止した,という2つに分けることができます。

つまり,過失が認められるためには単に「直前停止(停車)」であったというだけでは足りず,相手方と衝突してしまうような場所に停止(停車)していたか,ということも条件とされています。

このことは,後段の大阪地裁の裁判例も同様です。

大阪地裁の裁判例で過失を認めなかった根拠として,「Y1車が後退を開始してからX1車に衝突するまでの時間が前記認定のとおりであることに照らすと,X1車がY1車の後退を阻む形で直前停止したものとはいえない。」という理由が挙げられています。

ここでも,X1車がY1車の後退を阻む形で直前停止したものとはいえないと,相手方と衝突してしまうような場所に停止(停車)していなかった,ということが条件とされているのです。

このような裁判例の理由付けを見ると,「直前停止(停車)」に過失が認められるかという判断において「秒数(時間)」のみで考えることは誤りであるといえるでしょう。

このことは,停止(停車)したからの時間がそれなりにある(例えば10秒程度)の場合に,停止(停車)した車両に過失割合を認めた裁判例が存在していることの説明にもなります。

たとえ停止(停車)してからの時間がそれなりにあったとしても,停止(停車)した場所が不適切で,事故を誘発してしまうような場所に停止(停車)していたとか,事故を容易に防止できるのにしなかったという要素が認められる場合には,停止(停車)していた車両にも過失が認められるということです。

つまり,単に「直前停止(停車)」かどうかということで議論することには意味がなく,事故に至った状況についてもきちんと整理した上で,過失の問題を検討しなければなりません

交通事故は,取り扱っている弁護士が多数いるため受任後の進め方につき特に差がないように思われるかもしれません。しかし,細かな部分まで正確に理解できているかという点については,弁護士によって大きな差がある分野です。

当事務所は保険会社から困難な事件の依頼も直接依頼されている実績がありますので,ご相談が必要であればお電話いただければと思います。