水道料金は自己破産で免責されるのか,非免責となるのか(結論:下水道は非免責,上水道は大部分が免責)

破産手続をする際,申し立てをする方が水道料金を滞納していることがあります。

この場合,水道料金はどのようになるのでしょうか?以下,自然人の場合を想定しています。

インターネット上では,「水道料金」について特に区別することなく,免責債権にならない,つまり支払を免除してもらえないと記載しているサイトや,逆に免除してもらえると書いてあるサイトが多々あります(テレビCMしているような法律事務所でも区別していなかったりします)。

【結論】
「下水道料金」はすべて非免責債権(支払義務が残る)。
上水道料金」は免責債権だが,一部非免責債権となってしまう(大部分は免除されるが,一部だけ支払義務が残る)


以下,少し細かいですが解説します。

水道料金は「下水道」が非免責債権かつ財団債権ないし破産債権となりますが,「上水道」は破産債権として扱われかつ免責の対象になるのが原則です。つまり,「水道料金」の中で免除される部分と,支払いが必要となる部分がそれぞれあるということです。

まず,破産法253条1項本文では,「免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。」と定められています。

この文言からすると,免責の対象となるのは破産債権のみであり,財団債権に該当する債権はそもそも免責の対象となりません。

そして破産法148条1項は「次に掲げる請求権は、財団債権とする。」とし,3号で「破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権(第九十七条第五号に掲げる請求権を除く。)であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年(その期間中に包括的禁止命令が発せられたことにより国税滞納処分をすることができない期間がある場合には、当該期間を除く。)を経過していないもの」と定められています。

この「租税等の請求権」とは,破産法97条4号で「国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」と規定されています(青林書院刊「大コンメンタール破産法」)。

そして地方自治法231条の3第3項で,「普通地方公共団体の長は、分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該歳入並びに当該歳入に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる。この場合におけるこれらの徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。」と定められています。

つまり「法律で定める使用料」は,「地方税の滞納処分の例により処分することができる」,すなわち「国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」ということになります。

この「法律で定める使用料」は,地方自治法附則6条等に規定されています。

そして地方自治法の附則6条は「他の法律で定めるもののほか、第二百三十一条の三第三項に規定する法律で定める使用料その他の普通地方公共団体の歳入は、次に掲げる普通地方公共団体の歳入とする。」と定め,3号で「下水道」が挙げられています。

とすると,「下水道」については,「破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年を経過していないもの」に該当する部分は,財団債権となるため,そもそも免責の対象となりません。

なお,破産法55条2項で「前項の双務契約の相手方が破産手続開始の申立て後破産手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含む。)は、財団債権とする。」と規定されているため,破産手続の申し立て日を含む期間について発生した対価は財団債権として扱われることとされています。ただし,東京地裁の扱いでは契約を継続した場合のみ財団債権になるとされています(きんざい刊「破産実務Q&A150問」)

そうすると,「上水道」についても,申し立ての日に属する期間内の給付分の対価については,財団債権となった場合,下水道の場合と同様,そもそも免責の対象となりません。

次に,破産法253条1項但書は,「ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。」として,破産債権の中でも非免責となるものを各号で列挙しています。その中で1号は,「租税等の請求権」を定めています。

前述したように,「下水道」は「租税等の請求権」に該当します。

つまり,「下水道」は財団債権となるか,もしくは破産債権として扱われる部分も破産法253条1項1号の「租税等の請求権」に該当するため,いずれにせよ免責の対象にならないこととなります。

しかし,「租税等の請求権」ではなく,破産法253条1項1号に該当しない「上水道」は,非免責債権ではないため,財団債権として扱われる部分を除いて,原則として免責されることとなります。